バラが咲いた

2017/05/13
去年の春からこの家で暮らし始めた。
越してきたとき、庭は雑草だらけだったが、引っ越しを手伝ってくれた姉は「この庭のどこかにおじいちゃんの植えたバラがあるはず」と言った。祖父が植えたのは50年くらいも前のことなんだそう。だが、広い庭はほとんどが膝くらいまでの高さの雑草で覆われていて、バラなんかどこにも見あたらなかった。

ここは元々母方の祖父母の家で、祖父母がいなくなってからは両親が、そして父亡き後は母が一人で住んでいた。その母も骨折して入院し、そしてそのまま介護施設に入ったので、2年ほどこの家には誰も住んでいなかった。
それに、母は植物や庭の手入れに興味のある人ではなかったから、庭にバラがあるなんて、私は聞いたことすらなかった。

私が引っ越し荷物を片付けている間、姉は庭の手入れをしてくれた。伸びた枝を刈り、雑草を抜き、水まき用のホースも設置して、おかげでようやく”人の住んでいる家の庭”らしくなった。
そしたら、一面雑草で覆われていた裏庭に ”丸くレンガで縁取られた花壇” が現れ、そこには、痩せ細った枯れ木のような2本のバラの木があった。
しかし、高さは私の身長ほどあるものの、茎は灰色でまるで石化してるみたいだった。

姉は、枝にチョキチョキと鋏を入れ、肥料をまき、私にも「10日に一度肥料をまくように」と言った。
植物の世話をする趣味は私にはないし…、こんな枯れ木が復活するとは思えないけど…、不幸続きで人生に絶望している私がこれからも生きていくためには、バラを咲かせることでも目標にしてみるか..と、そんなふうに思った。


それから、姉に言われた通り、10日ごとに肥料をまいた。
世話をする..というほどのことはしなかったが、毎日必ずバラのところへ行った。去年は春から夏にかけて雨が少なかったから水をやったり、時には枝に鋏を入れたりした。しかし、私は本当に見るべきところは全く見ていなかったのである。


ある日、部屋の中から何気なく庭のバラの方に目を向けると、そこにピンクの大きな花が一輪咲いているのが見えた。私はビックリたまげ、目が点になった。(・・)
毎日見ていたのに、バラが蕾をつけていることに気づいてもいなかったのだ。
ガン!と頭を叩かれ、「ワシ(バラ)は行きとるゾ!、しっかり世話をせえ!」と、おじいちゃんのバラにそう言われたような気がした。


それから、もう少し熱心に世話をするようになった。とは言っても、まだまだだけど。
この"驚きの花"以降、去年は5度花が咲いた。バラは冬眠すると聞いたのに、寒い年末にも新しい芽がどんどん出てきて、そして暖かくなるにつれ枝が伸び、葉っぱも増えて、去年のように一つずつではなく、たくさんの蕾を一斉につけた。
そして、これが今日のバラ。きれいに咲いたでしょ♪
“バラ”
朝、カーテンを開けると庭に咲くバラの花が見える。それはとてもシアワセな瞬間で、傷つきくたびれた私の心が祖父のバラに慰められているような、そんな感じがしている。



Maggie and Yellow Rose / Pictures by Ann
このバラはいったい何年ぶりに復活したんだろう?
でも、こうして咲いたのは、私が世話をしたからではなく、このバラの生命力の強さだろう。実際私はいい加減で大した世話はしていないもの。(もしかしたら、あのノラ猫の置きみやげが効果を発揮しているのかもしれない...)
人がいなくなっても、その人が手をかけた植物が残っていると、そこにその人のやさしい気持ちも一緒にあるようなそんな気がして、心がほっこりと温かくなる。