母の毒舌

2019/06/17
あれはもう4年前のこと...。私が日本へ引き上げて来て2ヶ月が過ぎた頃、母は家の中で転び、骨折して入院した。その後結局、母が家へ帰ることは叶わなかったのだが、当時はまだまだ元気で、本人も足さえ治れば家に帰るつもりでいた。そんなある日、姉の一人がはるばる遠くから娘を伴い、母の見舞いに訪れた。

「お母さんの顔を見に帰って来たよ」と姉が言うのを聞くや、母はすかさず・・・

「顔が見たかったら、写真でも見ておけばいい!」

と強い口調で言い放った。(・・;)
なな、なんという憎まれ口。しかし、私も姉も可笑しくて吹き出してしまった。だってそれはいかにも母らしい発言だったから。

母は緑内障を悪化させ、視力をほとんど失っていたが、気性はまだしっかりしていて、病院を訪ねる子供達が誰かわからないというようなことは全くなかったし、言うこともしっかりしていた。
昨今の病院は患者に対して異常に媚びてみせるが、処置をしてくれた看護師が母に「ありがとうございます」と言うと、母は「それはこちらのセリフでしょう」と言った。口は悪いが「写真でも見ておけばいい」同様、言うことに筋は通っていた。


あまりに衝撃的な発言に、その後は何を話したのかあまり記憶にないが、最後に姉が「じゃあまた明日来るね」と言うと、今度は

「私のために泊まったりする必要はありませんよ!」

とキッパリ言った。やれやれ。。



そして翌日。
私たちは再び病院へ行き、姉は目の見えない母に向かって「お母さん、〇〇子よ」と声をかけた。すると、母は前日とはうってかわった様子で相好をくずし

「まぁ、〇〇ちゃん来てくれたの〜!」

と嬉しそうに言った。(・・)


そうだった...、この人は昔からこんなだった。。
喜怒哀楽が激しく、その時々の感情を他に対して(子供に対しても)激しくぶつけるから、子供にとってはそれはもうおっかない存在で、母の機嫌が悪いときには家の中で息を潜めていたものだ。
思春期の頃にはそんな母を憎んだし、だんだん母とは距離をおくようになったが、私たちはもう母の言動にいちいち傷つき怯えていた子供ではない。大人になってしまえば別にどうってこともなく、今でもこのときの母を思い出すと、姉と二人でゲラゲラ笑ってしまう。


感情の起伏が激しく情緒や思いやりに欠ける母は、誰に対しても心ないことを言ったりしたりしたが、それは自分の感情に素直なだけで、相手に嫌な思いをさせようという悪意はなかったのかもしれない(?)..、今はそんなふうにも思える。いわゆる「天然」なのだ。ただ、そんな人の子供でいるのは大変だったけどね。。



Cats / x-oph
ヒステリックで毒舌の母。しかし、祖父母(母の両親)にも父(母の夫)にも母は愛された。母の中に真の邪気がなかったからなのか?、それとも愛されたからずっと無邪気でいられたのか?、どっちなんだろう??
あ、そうそう。忘れてはいけない事実がある。耳にタコができるほど父に聞かされたが、若い頃の母はとびっきりの美人だったそうだ。(でも、子供心に母をきれいな人と思ったことは一度もないのよね...)