父と車

2019/01/18

*古いブログから(2012/5/12)

父は無類の車好きで、車を見るのも好きだったが、運転することが何よりの楽しみだった。免許を取ったのはいつ頃なのか?…なんでも教習は大型トラックで受けたそうで、大型免許も取得しており、運転がとても上手かった。

父との数々の楽しい思い出の中では車の存在もまたとても大きい。ドライブしたり旅行したり、近くに出かけるときに助手席に乗っているだけでも、本当に楽しいことがたくさんあった。

 
私が幼い頃に家にあったのはヒルマンという車らしい。今時の車よりうんと重厚な感じがして、ガソリンか、はたまたシートの皮のせいなのかはよくわからないけれど、とても臭かった。。私はその匂いが苦手で、いつも鼻をつまんで乗っていた。

Hilman Minx / Chris Lauffer


その後、父はホンダの二人乗りスポーツカーを所有していたこともある。
家族が多いから全然実用的ではないのだけど、、映画の007シリーズでジェームズ・ボンドが乗っているのを見た父が、どうしても欲しくなって買った車…だと思う。
でも、やはり当時はカッコよくて、皆が助手席に乗りたがり、ジャンケンして決めたこともあったように記憶している。小さかった私は、姉と一緒に助手席に乗って、家に着くまでずっと頭を押さえ込まれていたこともあったっけ。

 
70年代、父の愛車はセリカだった。
暴走族かと思ったら○○さんだった…と、知人に冷やかされたことを嬉しそうに話していた。

Toyota Celica, Hondarribia, Spain. / Vasconium


 
セリカのあとはBMW。そのまた次の車にもBMWを選ぶほど、父の大のお気に入りだった。乗せてもらう方としても、座席がいい具合に固く、とても乗り心地のよい車だった。当時のBMWは今時のものよりもうんといかつい感じがして、私もとても好きだった。(たしか1台目は中古、2台目は清水の舞台から飛び降りたと思われる..)
私が結婚して海外に住むようになってからは、私が帰国する度に、父は必ず空港までBMWで送り迎えしてくれた。

BMW M535i E28 / nakhon100


 
そして、そのBMWが父の最後の車になった。
70代も後半になり、父の運転もさすがに少々危うくなっていた。けれど、もう自分自身で「運転をやめる」という潔い決断ができないほどに、父は老いてしまっていた。
だから、、、馴染みの車屋さんに頼み、車に細工して走らないようにしてもらった。

ある日、いつものように父が車で出かけようとする。が、車は動かない。父は車屋さんに連絡する。車屋さんがやって来て「もうこの車はダメですね」と、父に最後通告をしたのである。
レッカー車で引かれていく車に別れを告げ、父と車との長いつき合いは終わった。

 
それから何年かして…、運転を始めたファザコン娘は、やはりBMWを選んだ。運転しやすいいい車だった。父を乗せたならきっと喜んだろうに…、その機会が一度も訪れなかったことが今でも悔やまれて仕方がない。


Cat / steve.wilde

私も車の運転が好きだ。(今は乗ってないし持ってもいない)免許取り立ての頃には父の車を運転させてもらったが、父は必ず助手席に乗って厳しく指導してくれた。
その後の数年はペーパードライバーだった私がついに車を手に入れ、運転するようになったと父に報告したとき、「アンタは用心深いから大丈夫よ」、父はそう言ってくれた。父に「大丈夫」と言ってもらえたことが、私にとってどれほど心強かったことか。