ホンコンからの墓参り

2019/08/28
シンディは夫の秘書だった。夫の会社は無くなり、私たちが日本に帰国してからも、ずっと連絡を絶やさずサポートしてくれた。今でも、夫の命日や私の誕生日には必ず連絡をくれる。
今月上旬、そんな彼女が夫の墓を参るために家族と共にホンコンからやって来た。

夫は独立して会社を設立した際、それまで勤めていた会社で事務員をしていた当時20歳そこそこのシンディを引き抜いた。
同じ業種の会社を始めるにあたって、初心者に一から仕事を教えるより、シンディを連れ出す方が手っ取り早かったからだ。また、当時シンディは事務職の中では新人だったので、引き抜きに対する上司の許可も得やすかった。そしてもう一つ(多分ここが一番のポイント)、シンディのデスクがいつもきちんと整頓されていたから...だった。
それから約30年、シンディは夫の元で働いた。


彼女の夫君のアミンもまた、のちに雇った夫の会社の職員で、夫のお気に入りだった。
二人は職場で出会い、互いに好意を持ち、結婚して二人の子供を授かった。
上の女の子は21歳、「日本が好きだから」と、留学して東京で日本語を学んでいる。年の離れた弟はまだ13歳だが、シンディに似て背が高く、年齢より大人びて見える。二人ともとてもいい子だ。


私と義妹は駅で彼らを迎え、まず、夫の実家で義母も交えてひとときを過ごし、それから夫の墓へと向かった。
墓参りの後はお城へも足を伸ばし、少しだけ観光案内、それから皆で食事をした。
話もはずんで楽しい会食だった。が、夫の病気の経緯や最期の様子を聞くと、シンディは涙を流し、アミンも目を真っ赤にした。
夫の死を心から悼んでくれている二人の気持ちがとても有難かった。


私はずっと、夫はホンコンで長く過ごした挙句に全てを失い、悪い思い出しか残らなかったと思っていた。けれど、こうして夫のためにはるばるやって来たシンディたちを目の当たりにして、そうではなかったことに気づいた。
夫の会社がなければ、この2人は出会うことも結婚することもなかっただろう。だとすれば、当然この子供たちもいなかったはずだ。
血のつながりはなくても、夫は、この家族にとって欠かすことのできない存在だったのだ。

夫がホンコンに居た証し、あとに遺したものは確かにあった。それはこの家族だ。そう思うと、私はずっと胸の中に抱えていた"つかえ"が取れていくような気がした。
そして、シンディ一家の訪問をよろこび、嬉しそうに笑っている夫の顔を瞼にはっきりと思い浮かべることができた。

(夫は、アンクルトリスのモデルではないかと思えるほどよく似ている)(^^)
(*画像は「アンクルトリス (@uncle_torys) | Twitter」から拝借しました)




[How's That for a Pose!?! / mscaprikell]
墓参りを終えたシンディは「やっと願いが叶った」と言った。が、彼女のそんな想いこそ私や義妹のつらかった気持ちを癒し、夫の魂をも慰めてくれただろう。私たちはシンディに心から感謝した。でもきっと、シンディもまた、そんな感謝の念を夫に対して抱いているのだと思う。夫から始まった縁はつながっている。昨夜、たまたま点けたテレビに映しだされたホンコンの街並みを、私は帰国以来初めて「懐かしい」と思いながら見つめた。
ところで、シンディの来日は2つの台風やホンコンのデモ騒動の最中だったのだが、何一つ予定変更することなく無事に終えた。もしかして(たぶん全員がそう思っているだろうけど...)、夫が見守ってくれたかしらね。(^^)